<第2部>子育てをひとりで抱え込まないで。深津高子先生が語るモンテッソーリ教育
『お母さん1人で子育てを抱え込み、疲れきってしまわないでほしいですね。』
第2部は、子育てをひとりで抱え込んで悩まないために、モンテソーリ教育を家庭へ広めて子育てを支援していくためのサイト『Aid to Life』や、大好評の子育て座談会『Montessori with Tea or Coffee?』について、具体的な事例を上げて語っていただきました。
<全2部構成> 第1部:家庭から始まる平和とは?深津高子先生が語るモンテッソーリ教育 第2部:子育てをひとりで抱え込まないで。深津高子先生が語るモンテッソーリ教育 |
子育てに役立つWEBサイト「Aid to Life」
ー中澤
子育てに役立つ情報がたくさん詰まったモンテッソーリWebサイト「Aid to Life」について教えてください。
ー深津先生
「Aid to Life」は、オランダの国際モンテッソーリ協会(以下AMI)が無料でモンテッソーリ教育について詳しく紹介しているウェブサイトで、家庭での子育てや子どもの発達についてなど、保護者にわかりやすく伝えている良いサイトです。
大切なことがとても分かりやすく書かれていて、すでに16ヶ国語に訳されていたのですが、日本語訳はまだできておらず、これは日本語に訳さなければいけないと思いました。
モンテッソーリ教育の視野を広げるためにも、AMIにウェブサイト“Aid to Life”の翻訳許可をいただき、訳しました。
「モンテッソーリ」というと、保育園や幼稚園のクラスの中だけに存在するような誤解がありますが、もっと家庭での子育てや地域の中にも広める必要があります。
ー中澤
子育ての助けとなるサイトですね。
ー深津先生
そうです。「Aid to Life」という言葉は、「生命が育つお手伝い」という意味でもあります。他の子育てサイトは、大人が主語になっていて大人目線でどうしたら良いのかが書かれていますが、このサイトの素晴らしいところは、子どもの目線で書かれていることです。
誰でも「Aid to Life」を読むと、「赤ちゃんってこう思っているんだ」とわかるように書かれています。このサイトが大人と子どもの架け橋になって、子どもの代弁者のような役割が増えれば良いですね。
子どもの自然な発達を手伝う
ー中澤
具体的に「Aid to Life」のサイトはどのように子育てに役立てることができますか?
ー深津先生
「子どもが自分でできるように手伝う」というコンセプトで、モンテッソーリ博士の考え方や、子どもをどのようにサポートするかなどが具体的に書かれています。
例えば、「自立」というところを見ると、トイレットラーニングや離乳について書かれています。
普通「自立」というと、1人で靴が履けるようになるとか、歩けるようになることだと思いがちですが、モンテッソーの考え方は、それだけではありません。離乳や、自分で食べる事、トイレに関することなど、体の機能や生活面全てが含まれています。
モンテッソーリ教育では、トイレ”トレーニング(訓練)”と言わず、トイレット”ラーニング(学習)”と呼びます。これは膀胱の膨らみを脳が察知して、「そろそろトイレに行かなくちゃ」と気づいて、自分でトイレに行けるようになるまで何回も試行錯誤して失敗を繰り返して、予測できるようになった結果です。
膀胱の筋肉の発達も全て含めて、”トイレットラーニング”と呼んでいて、大きな自立の節目なのです。
イヤイヤ期は子どもの「独立宣言」
ー中澤
年齢や子どもの行動事例ごとにアドバイスが書かれていて、今知りたいことがわかりますね。
ー深津先生
その時の子どもの発達に合わせてアドバイスを探せます。特にイヤイヤ期の悩みも多いと思います。大人はイヤイヤ期の子どもは本当に困ると言いますけど、イヤイヤ期というのは、「あなた(通常母親)に頼らなくても生きていける!」という独立宣言なんです。
今までお母さんのおっぱいを飲んでいた赤ちゃんが、離乳とともに「お母さんと私とは別々の個々の人間なんだ」と気づいて、親の手をふり払って「私はできる!」と言っているんですよね。実際にはまだいろいろなことは自分でできないけれど、それはとても大きな成長です。
子どものイヤイヤ期の行動や言動は、子どもからの自立のメッセージだということです。
ー中澤
そのように認識すると、子どもの行動に対して見え方や接し方が全然違ってきますね。
ー深津先生
大人の環境に幼い子どもを迎え入れると、部屋の中には触れてほしくないものがたくさんあり、一日中「だめ」と言わなければならない状況がありますよね。
でも、モンテッソーリ教育を知ると、子どもが今何をしたいのか観察して、環境(部屋)を子どもがいても安全な空間に整えることができ、1回でも「だめ」を減らすことにつながります。
そうすれば、赤ちゃんの頃から「ここは安心できる場所で、私はここで好きなだけ動ける。」という安心感や自己肯定感、集中力を育てる事ができて、後にもう少し広い社会の中でも、自分や周りの世界に対して自信を持って生活できるようになります。
それは難しいことではなく、家庭で今すぐできることが、たくさんあります。
子育て相談会「Montessori with Tea or Coffee?」
ー中澤
深津先生がカフェスローで開催している「Montessori with Tea or Coffee?」について教えてください。
ー深津先生
「Montessori with Tea or Coffee?」は、カフェスローで、3年前に始まりました。カフェスローは、美味しさだけでなく環境に配慮して、コーヒーや食品を生産する人の安全も考えているオーガニックカフェです。ゆったりとした時間の中で、親もリラックスしながら子どもの事を相談できる空間と時間を提供しています。
そこで、いろんなお悩みを聞いたりモンテッソーリのお話をしています。どうぞお子さまと一緒に気軽に来てください。
>>>「Montessori with Tea or Coffee?」の詳細はこちら
ー中澤
話を聞いてもらうだけでも安心しますよね。どんなお悩みが多いですか?
ー深津先生
イヤイヤ期やトイレについて、また兄弟喧嘩の悩みがとても多いです。
「親のいうことを聞きません。どうしたら言う事を聞くようになりますか?」「子どもが私(母)を叩きます。どうすればやめさせられますか」なんていう質問もあります。
多くの場合、問題行動は他の何かが、引き金になっている場合が多いように感じます。
ー中澤
ここでのお話や情報交換によって、保護者の意識も変わるきっかけになりますね。深津先生に相談できるなんて、とても良い機会ですね。
ー深津先生
小さなことでも相談に来て、帰るときに子どもへの(または自分への)新しい気づきが一つでもあればうれしいです。
子育ての背景に寄り添うと見えてくるもの
ー深津先生
でも最近感じるのは、モンテッソーリ教育のアドバイスだけでは解決できないことがあると感じます。
ー中澤
例えばどのような事ですか?
ー深津先生
先日の親子の話です。
1歳8ヶ月のこどもが泣き真似をするとすぐに抱っこしたり、すぐ子どもの要望に応えてしまうお母さんがいました。
子どもが泣き真似をすればお母さんが何でもやってくれる状況で、その悪循環が子どもの精神的な発達を遅らせているのでは?と感じました。
しかし、よくお話を聞いてみると、そのご家庭のお隣に住む方がとにかく子ども嫌いな方で、苦情を言われて、これまでマンションを転々としてきたそうです。だから、お母さんはとにかく「子どもを泣かせてはいけない」という心境で子育てをしていて、ノイローゼぎみになっていました。
このように、親の意識だけでは解決できない問題も、たくさんあります。
そういう意味でも、社会全体で子どもの存在がどれほどかけがえのない大切な存在か、わかっていかなければいけませんね。みんなかつては子どもだったのですから。
ー中澤
社会的な問題が深く関係しているのですね。
ー深津先生
嬉しいエピソードもたくさんあります。
例えば、おじいちゃんと三世帯で暮らしているご家庭のエピソードです。
「4歳の娘がテレビしか観なくて、どうしたらテレビ離れできますか?」というお悩みでした。
よくお話を聞いてみると、その背景に別の問題がありました。それは、同居しているおじいちゃんが朝から晩までテレビを見ているという事です。
おいじいちゃんは歳をとってから自分が生まれ育った地域を離れて、孫と同居するために東京に移り住んで来たそうです。東京にはおじいちゃんの慣れ親しんだコミュニティがないため、何もすることがない。それで朝からテレビを見てるだけの生活になっていたようです。
そこで「おじいちゃんに、孫が帰ってきたら絵本を読んでもらったら?」と提案しました。
丁寧なページのめくり方を見せたり、作者やイラストレーターの名前も読み、内容もなるべく自然なものを、というアドバイスをお伝えしました。
その後、孫もこの時間を喜び、おじいちゃんも絵本を読んであげることが楽しくなり、それが日課になったそうです。そのうちに、おじいちゃんは「駒回しも教えたい」「絵本や駒などを置いておく棚を作りたい」と言い出したそうです。
結果、おじいちゃんも娘さんもテレビは全く観なくなって、作戦は大成功したというお話です。
このように、娘さんがテレビばかり見てしまう原因やその背景も考えて、おじいちゃんの心境も考慮することが大切ですよね。おじいちゃんの生活も変えなければ、子どもの問題は解決しないということを学びました。
ー中澤
家族、そして社会全体での、子どもとの関わり方が重要ですね。
ー深津先生
そうですね。社会全体に子どもの大切さを伝えていくことも「モンテッソーリ教師の役割」だと思います。
モンテッソーリ教育は、クラスの中だけ、教具だけ、園内だけがモンテッソーリ教育の場所ではないです。
社会の一番最小単位が「家族」で、まずは家庭から平和が始まります。個から始まり、一人一人のなかに平和を育てていくことが大切で、そういう人たちが集まってコミュニティを作る。
その平和が広がって地球レベルになっていく。それがモンテッソーリ教育の平和運動だと思います。
まずは家庭から、私たちができること
ー中澤
私たち、一人一人に何ができるでしょうか?
ー深津先生
本日お話したサイト『Aid to Life』を参考にしたり、『Montessori with Tea or Coffee?』にもぜひいらして下さい。
『AMI友の会NIPPON』が主催している様々な講座やイベントに参加していただくことや、翻訳されたモンテッソーリの著書をお読み頂くことも良いと思います。
モンテッソーリ教師のトレーニングコースを受けて、保育園や幼稚園での仕事だけでなく、自身の子育てや地域への貢献など、様々な活動が考えられます。
講演会などは、できれば夫婦で参加してほしいですね。どうしても母親の方がアンテナを張っていて、子育てに悩むと「自分のやり方が間違っていたんじゃないか」と感じて心の負担が多くなりますよね。
ご夫婦での参加やお父さんが1人で講演会に来ていると「素晴らしい!」と言っています。
ー中澤
家庭の中でできること、心がけることはありますか?
ー深津先生
家庭でのモンテッソーリ教育は、お母さんの家事をどんどん子どもやお父さんに分配して、ワークシェアリングしていくことがとっても大切です。
お母さん一人でワンオペをするのではなく、家でお手伝いをたくさんさせてあげて下さい。
例えば買い物から帰ってきたとき、「ジャガイモは冷蔵庫には入れないんだよ」と教えながらカゴにいれてもらうとか、トイレットペーパーは子どもの手の届くところにしまったり、子どもができることをどんどんやらせてあげてください。
あと重要なのは、お父さんも家事をすることです。
日本の良い文化は大事にしますが、日本は男女の育てられ方が違うという特殊な環境でもあります。もしお父さんがまったく家庭の仕事をしないと、子どもの吸収する精神で、「お父さんは料理をしない」とか、「いつもお母さんだけが家事をしている」という印象を吸収して、日常から価値観が構築されてしまいます。
配膳も食器洗いも洗濯も全部お母さんがやって、子どもやお父さんは旅館のお客さんみたいではよくないですね。
お母さんは、子どものやり方や旦那さんのやり方が気になっても少しくらい目を瞑って、「ありがとう。助かったよ。」と言ってあげましょう。
おじいちゃんおばあちゃんにも役割を分担して、お母さん1人で抱え込んで疲れきってしまわないでほしいですね。
「家族になる」というのはそういう事で、ほんの小さなことから今すぐはじめられると思います。
ー中澤
子どもはお手伝いが大好きですものね。それぞれが支え合えるといいですね。
ー深津先生
そうですね。私の過去の話ですが、モンテッソーリ園では年少児も雑巾を洗って干すことができるのに、結婚したとき、夫にそれができないのはとても驚きました。だから教えましたよ(笑)!
家庭でできるモンテッソーリ教育は日常生活にたくさんあります。
確かに大人がやった方が早いですが、1人でやってしまわずに、ぜひ『Aid to Life』を参考にしたり、『Montessori with Tea or Coffee?』に参加してみて、導入の仕方を学んで下さい。
ー中澤
多くのご家庭に、モンテッソーリ教育を知って欲しいと思います。
深津先生、本日はどうもありがとうございました。
今回ご紹介したAMI友の会Nippon、Aid to Life、Montessori with Tea or Coffee?は、保育現場だけでなく、ご家庭への様々な支援活動や情報発信をしておりますので、ぜひチェックしてみてください。
AMI友の会NIPPONは、どなたでも参加できます。ぜひ一緒にモンテッソーリ教育の輪を広げていきませんか?
>>>『AMI友の会NIPPON』
友の会で翻訳されたサイト
>>>『Aid to Life』
カフェスローで開催しているモンテッソーリ子育て相談室
>>>『Montessori with Tea or Coffee?』
【プロフィール】
深津高子(ふかつたかこ)
国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師
一般社団法人AMI友の会NIPPON 副理事長
ピースボート「洋上子どもの家」アドバイザー
AMIモンテッソーリ教師養成コースの通訳や講演、翻訳などを通して「平和はこどもから始まる」というモンテッソーリ博士のメッセージを普及している。
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